要旨: |
近年の地震波観測から地球外核の外側境界付近における安定成層の存在が示唆されている(e.g., Lay and Young 1999, Helffrich and Kaneshima 2004,2010).安定成層下部の不安定成層流体中ではダイナモ作用により固有磁場が
生成されている.一方、安定成層内部では対流運動が抑制されるため、不安定成層流体中で生成された磁場が弱められることが予想される.実際、幾つかの数値計算によれば, 上層の安定成層は外核表層の磁場擾乱を減衰させる
効果を持つことが示されている(e.g., Christensen 2006, Nakagawa 2011).
深部対流運動の安定成層内への貫入の程度は、ダイナモ作用による磁場生成、さらには地球磁場の永年変動に関連して安定成層内部の流体力学の鍵となるポイントである.Takehiro and Lister (2001) では磁場が存在しない場合に
おいて、外核内の対流運動の安定成層への貫入のスケーリングを理論的に導出し、貫入距離が安定成層内部のブラントバイサラ振動数と流体の運動の水平波数に対する回転角速度との比に比例することを示した.しかしながら、
磁場の影響下での貫入スケーリングはいまだに調べられていない.そこで本研究では, 磁場の効果を考慮した場合の深部対流の安定成層内の磁気流体運動への影響について、磁気対流計算およびダイナモ計算によって調べた.
線型論によれば、磁場が存在する場合にはどんなに強い安定成層であってもAlfven 波が伝播可能であり、その伝播距離は、励起されるアルフベン波の速度を粘性拡散係数の相加平均と全波数で割ることにより見積もられる.軸方
向の一様磁場に埋め込まれた上層に安定成層を伴う回転球殻中の磁気対流計算では、基本場の磁場の弱いときには安定成層下に閉じ込められていた磁気流体運動が、基本場磁場が強められるとともに上層の安定成層へ磁気流体運
動が浸透していく様子が観察された.また、MHDダイナモ計算においても磁気擾乱の水平成分が上層の安定成層中を容易に貫入していることが確認された.
地球惑星科学的に興味のある物理量は、惑星表面で観測可能な磁場動径成分である.理論モデルから予想される強い安定成層内にて励起される擾乱は水平方向に流体運動が制約されたアルフベン波であるために磁場の動径成分を
持たない.しかしながら、回転球殻中の安定成層内では磁気対流によって磁場の動径成分が弱いながらも励起される.地球流体核上層に安定成層が存在しているならば、地球表面で観測される非双極子磁場成分はこのようなメカ
ニズムで安定成層内に励起されているのかもしれない.
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