3月の学科談話会を下記の通り行います。教官・院生・学部生を問わず多くの方
々のご参加をお待ちしております。

講師:西尾嘉朗氏(JAMSTEC)
場所:自然科学3号館609セミナー室
日時:3月10日16時〜17時半
タイトル:リチウム同位体地球化学で得られた新しい地球内部物質循環の知見に
ついて

要旨:
多検出器を装備したICP質量分析  
(MC-ICP-MS)の登場によって、微少量のリチウムの同位体組成が高精度に迅速に測
定できるようになった。これまでの熱イオン質量分析 
(TIMS)を用いたリチウム同位体測定は高度な技術と時間を必要とするため、得ら
れたデータ数も限られたものであった。本発表ではこれまで得られた地 
球のリチウム同位体地球化学をレビューするとともに、MC-ICP-MS装置を用いて演
者が分析した海洋底火山岩やマントルゼノリスといったマントル物 
質のリチウム同位体組成を用いて地球内部のリチウム循環について得られた新し
い知見を紹介する。

特に本研究中に一部のマントル試料にこれまで報告のない異常なリチウム同位体
組成が発見された。SrやNdといった同位体組成と比較することで、その異 
常なリチウム同位体比が、沈み込んだ海洋地殻の中でも最上部にあたる最も海洋
変質を受けていた部分に起源を持つ可能性を持つ可能性を議論する。この事は 
地球内物質循環研究において、リチウム同位体が再循環した海洋地殻がどのぐら
い海洋底変質をうけていたか(どのぐらいの深さにあったか)という情報を与 
えてくれるトレーサーとなりうる可能性を示唆する。さらにこのような異常なリ
チウム同位体組成は西南日本やシホテアリンといった極東ロシア域のマントル 
ゼノリスから発見され、これらの地域のマントルはリチウム同位体比の見地から
は東北日本域とは異なる。

References:
1. Nishio et al. (2004) Lithium isotopic systematics of the  
mantle-derived
ultramafic xenoliths: implications for EM1 origin, Earth and Planetary
Science Letters 217, 245-261

2. Nishio and Nakai (2002) Accurate and precise lithium isotopic
determinations of igneous rock samples using multi-collector inductively
coupled plasma mass spectrometry, Analytica Chimica Acta 456, 271-281