講演者  : 光田 千紘 (北大, 博士後期課程3年)
タイトル: 放射加熱によって調節された二酸化炭素氷雲の散乱温室効果と古火星の温暖化

日時    : 2007 年 5 月 10 日 (木)  13:30-
場所    : 自然科学研究科3号館 5階セミナー室(508)



  地形学的証拠から初期 (38 億年前) の火星は液体の水が地表面で安定に 存在できるほど温暖であったと推測されており, そのメカニズムとして高圧 の CO2 大気の存在とその対流圏上部に形成される CO2 氷雲による散乱温室 効果が提案されている. 従来の研究では, 散乱温室効果は雲粒径, 雲の光学 的厚さ及び雲の形成高度に依存することが示されている. 一方でこれら雲パ ラメタの物理的制約はあまり行われていない.

  雲層では湿潤対流が活発に生じており, 雲パラメタを直接見積もるために は大気の運動を解く必要があると一般的に考えられている. しかし, 古火星 大気では凝結成分が主成分であることにより, 湿潤対流が励起されない可能 性がある. 例えば, 凝結によって減少した CO2 ガスが周囲からすばやく再 供給され, 放射冷却を潜熱加熱で打ち消すほどの大気凝結が生じ続けるかも しれない. その場合, 雲層の気温は CO2 凝結温度に保たれ, 大気は中立成 層を維持するため, 鉛直混合は駆動されない. さらに放射冷却によって成長 した雲相が正味放射加熱をうける効果があれば, 雲層は放射平衡となるよう に自律的に粒径を調節し, 系は平衡状態へと収束するだろう. この場合, CO2 降雨や降雪なしに雲の構造が決まることになる.

  そこで本研究では一次元放射対流平衡モデルを構築し, 放射平衡及び CO2 気固平衡を満たす雲の鉛直構造とその温室効果の見積りを行った. 結果、大 気圧 3 気圧以上, 凝結核混合比 105 - 107 kg-1 の場合, 暗い太陽の下 でも地表面温度は H2O の融点を超える程の強い温室効果が生じることがわ かった. また地表面温度の強い凝結核混合比依存性を考慮すると, 温暖湿潤 気候の一時性を説明できるかもしれない. CO2 氷雲の散乱温室効果が古火星 気候へ与える影響をより詳細に見積もる為には, 凝結核の供給消失過程を検 討する必要がある.