講演者  : 三浦 均 (京都大学)
タイトル: 石質隕石から読み解く原始太陽系星雲内部の物質進化:
衝撃波加熱モデルに基づいた理論屋の視点 日時 : 2007 年 10 月 11 日 (木) 16:00- 場所 : 自然科学研究科3号館 6階セミナー室 (609)


 地球に最も多い頻度で落下する石質隕石には、かつて原始太陽系星雲内部に存 在した始源的物質の情報をほとんど損ねることなく保存していると考えられる ものがある。その情報を様々な視点で調べることで、星雲内部の物質進化につ いて知見を得ることが可能である。我々太陽系の過去を探らんとし、多くの理 論屋、観測屋、分析屋による精力的な研究が続けられている。

 原始太陽系星雲内部で劇的に物質を変化させるメカニズムとして、ガス円盤中 で生じた衝撃波に伴うダスト加熱現象(衝撃波加熱モデル)が挙げられる。モ デルを簡単に説明しよう。ガス円盤中で は、ガスとダストは相対速度が(ほ ぼ)ゼロの状態で共に中心星の周囲を公転していると考えられる。そこに、な んらかのメカニズムで発生した衝撃波が通り過ぎるとする。衝撃波通過後、ガスは急激に加速されるが、ダストはそのままの位置に居続けようとする。結果、ガスとダストの間に大きな相対速度が生じ、ダストは高速ガス流にさらさ れることになる。このときのガス摩擦によって、ダストが加熱される。この加 熱現象を応用したものとして、コンドリュール形成や、非晶質ダストの熱的結 晶化などが提案されている。

 私は、衝撃波加熱モデルに基づくダストの熱的進化を、主に数値シミュレー ションの手法を用いて研究してきた。特に注目しているのは、コンドリュール の形成と、それに伴うダスト蒸発・凝縮現象である。我々の近年の研究によ り、実際に隕石に含まれているコンドリュールの物理的特徴(サイズ、三次元 形状、複合コンドリュール)や、隕石マトリクス中に見られる多様な形態の olivine微結晶の形成環境が再現できる可能性が示唆されてきている。この結果は、原始太陽系星雲内部において、衝撃波が言わば物質進化の工場としての 役目を果たし、隕石中に見られる多様な構造を生み出したというシナリオを強く支持する。今後、原始太陽系星雲内部でのダスト熱的進化を解明していくに は、我々が取り組んでいる「理論モデルの定量化」に加え、「室内実験による 実証」や「隕石の化学分析」の各分野が積極的に協力・意見交換していくこと が重要となるだろう。

 講演では、理論屋としてどのようなシナリオを描いているのかについて、自身 の研究成果を中心に紹介する予定